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家族三代の支え合いで見いだした芸術の本質

元尚美学園教授/西東京平和大使協議会議長 大井 美智子

 私が幼い頃から携わってきたヨーロッパ芸術は、キリスト教を背景として生まれ発展してきた文化です。そして、宗教・芸術は人々が本来最もこいねがう「懐かしい本然の世界」へといざなってくれる世界です。

 かつてバッハは曲を創作するにあたり、「ただひたすら主の栄光を褒め讃えるためにのみ」と書き記しています。また、ベートーベンは結婚について、個人的にあまりにも幸せになってしまっては、神に託された「預言者としての使命」を果たせなくなるのでは、とためらったことがあると伝えられています。このように、偉大な作品を数多く残したバッハ、ベートーベン、モーツァルトなどの音楽家はみな、それぞれに厳しい試練を経ながら創造主たる神の栄光を褒め称え、その言葉を述べ伝える預言者としての使命を担っていました。

 私も小さい頃からピアノ一筋の生活で、食べ物すら事欠いた戦時中でさえ、母は私に音楽に打ち込む環境を与えてくれました。日本・ウィーンのセミナーでは、世界的なピアニストで、ドイツ・ロマン派音楽の大家と言われたイェルク・デムス氏の指導を受けました。結婚してからも、主人も娘も理解してくれているものと勝手に思い込んで、何よりも音楽優先の生活をしてきました。

 2000年6 月に、私と同様、ピアニストとして活動していた娘に男の子が生まれました。しかし、活動の拠点としてウィーンから離れられない娘の事情もあって、私が東京で孫を育てることになったのです。娘のためとはいえ、何よりも音楽に身を捧げてきた私の人生ですから、「牙城を明け渡す」ような心境で、さまざまな想いが交錯しました。

 しかし、覚悟を決めて孫と向き合った時、「こんなにも愛おしいものがこの世にあったのだ」と気づかされました。24時間、心を込めて必死に孫に寄り添う生活の中で、ふと気がついてみると、家族全員が心からの感謝と喜びをもってお互いのために生き、支え合っている現実がありました。

 この瞬間、目からウロコが落ちたように、「神の栄光を顕すべき芸術」も、今までは全く観念的なものに過ぎなかったことを深く思い知らされました。

 このたびの東日本大震災では、本当に多くの方が身近にいる大切な方々を亡くされたり、慣れ親しんだ懐かしい故郷を離れざるを得なくなりました。想像を絶するさまざまな現実の中、それでも必死にがんばっていらっしゃる姿を思う時、心からお見舞いを申し上げます。

 同時に、こうした方々の心深くに慰めと安らぎ、そして希望をもたらす芸術があるとしたら、それは私がはからずして経験したような、家族三代による生活の中で交わされた「真の愛と心情の世界」からこそ生まれ出てくるのではないかと思います。

 真の芸術を通じて心に満ちあふれる喜びを、全ての人々と分かち合うことができることを心から願っています。

(Monthly News Letter「ファミリー・プロミス」より)